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福岡高等裁判所 昭和34年(ラ)46号 決定

抗告人 鍋倉ミヤ子

訴訟代理人 高木定義

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の理由とするところは別記のとおりである。

一、抗告理由第一点について。

競売法第二十四条によれば、競売法による不動産競売申立について代理人による申立が許されること、およびその場合代理人の権限を証する書面として委任状を提出すべきことが明らかであるから、競売法上の手続の代理に関しては民事訴訟法あるいは非訟事件手続法の準用は予定されていないのであつて、右規定以外には代理人たる資格について特別になんらの制限はないものと解すべきである(大正三年三月四日大審院決定ならびに昭和三十二年四月一日東京高等裁判所決定参照)。しかして競売の観念については諸種の説があるけれども、ひつきようするに債権者の債権の満足を求める担保権実行の方法であるから、その限りにおいては私権の実現を目的とするものというべく、従つて独立の人格を有する者で担保権実行の能力に欠くるところなき以上、自然人であると法人であるとを問わずその代理人たるに妨げないものと解すべきであるから、これと異つた見解を前提とする抗告人の主張はとうてい採用することができない。

二、抗告理由第二点について。

記録に徴すれば本件競売期日の公告中、抗告人所有の福岡県嘉穂郡二瀬町伊岐須三百番地の一家屋番号新町第二〇六番木造瓦葺平建居宅一棟建坪三十一坪五合について「約六坪を期限昭和三三年二月より無期限で賃料月三、〇〇〇円敷金三〇、〇〇〇円で明星照美が賃借している。」との記載がなされたことが認められるが、福岡地方裁判所執行吏梅丸守作成の不動産賃貸借取調報告書によれば、右賃貸借の期限は昭和三三年一月中旬より無期限であることが明らかであり、右公告には一部実際と符合しない記載があるといわねばならない。然しながら競売期日の公告に賃貸借の期限ならびに借賃および借賃の前払または敷金の差入あるときはその額を掲載することを要するのは、それが抵当権者、従つて競落人に対抗しうる賃貸借である場合、このような賃貸借の有無が該物件の価額に差異を生ずるがために一般人をしてこれらの事実を予知せしめて競売申出をなすについてその価額の標準を与えようとするものにほかならない。従つてかりに右賃貸借の始期が前記報告書記載のとおりであり、公告に掲載されたところがこれと前記のように異るところがあるからといつても期限はいづれも無期限であり、前示趣旨にかんがみれば右公告に掲載されたところは実質上なんら差異がないから法定の要件に欠くるところはなく、この点抗告人の主張も採るに足りない。

三、抗告理由第三点について。

(イ)、抗告人が家屋番号新町第八六番の家屋と称するのは本件競売物件中の国守舜太郎所有の福岡県嘉穂郡二瀬町伊岐須字縄手崎百三十一番地家屋番号新町第八十六番木造瓦葺二階建居宅一陳建坪二十二坪五合外二階十二坪七合を指するものと解されるところ、そもそも競落許可の決定についての異議は自己の権利に基くことを要し、他の利害関係人の権利に関する理由に基くことを得ない(競売法第三十二条第二項民事訴訟法第六百八十二条第三項第六百七十三条参照)ものであるから、右家屋についての抗告人の抗告はとうていこれを以つて適法な抗告理由となすことはできたい。

(ロ)、本件記録に徴するに前記二、に記載の抗告人所有の家屋が本件競売期日の公告によれば木造瓦葺平建居宅一陳建坪三十一坪五合となつており、登記簿上も右同様に記載されているところ、鑑定人清水健作成の不動産評価書には抗告人所有の右家屋は一部三、七五坪が中二階となつている旨の記載がなされていることが明らかである。しかして右公告に記載する不動産の表示は登記簿記載の不動産のほかこれと実在物との間に相違が判明した場合においては実在物についてもこれを併記することを要することは競売法第三十二条、民事訴訟法第六百八十一条、第六百七十二条第四号の法意に照して明らかなところではあるが、本件においては右公告の記載と実在の建物の坪数との差異は僅かに中二階三、七五坪であつて、これを以つて右家屋の評価において経済上著しい差異を生じたものとは認め難い(このことは右家屋の競落価額金三十七万八千円は前記鑑定人清水健が実在物について評価した価額と同一であることからも容易に推知できる。)。従つて本件公告には正確に実在物を記載しない嫌はあるが、これを以つてただちに本件競落を不適法として許可すべからざるものとはなすことができない。

四、抗告理由第四点について。

競売法第二十七条第二項により利害関係人に対し競売期日の通知をしないときは競落はこれを許可すべきものでないことは抗告人主張のとおりであるが、既に三、の(イ)において述べた如く競落の許可についての異議は他の利害関係人の権利に関する理由に基いてこれをなすことを許さないものであるから、この点についての抗告人の主張もとうていこれを以つて適法な抗告の理由とすることはできない。

五、以上のとおりであるのみならず、本件記録を精査しても他に本件競落を不許とする事由を見出すことができない。

六、よつて本件抗告を理由がないものとして棄却し抗告費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 秦亘 裁判官 山本茂)

抗告理由

第一点本件に関する昭和三十三年十月廿四日の競売手続開始決定によれば、「債権者を相手方と表示し右代理人として株式会社正金相互銀行を表示しその代理人として、高橋道則」と表示してある。民事訴訟法及び非訟事件手続法の関係上法人が訴訟行為、非訟事件行為の代理人となり得るや否やは非常なる疑問があるが当代理人は法人は右等の場合に於ては代理人となり得ないとの見解を有しておる。果して然らば、本件の開始決定は当然無効であり又競売申立も不当である。その他競売期日公告、競売期日の通知等も当然無効となるものである。

第二点本件競売期日の公告によれば、抗告人所有の家屋番号新町第二〇六番の家屋(本件競落許可の物件)の賃貸借として、「約六坪を期限昭和三十三年二月より云々」と賃貸借の表示がある然れども記録中執行吏の賃貸借取調べによれば、昭和三十三年一月中旬より賃貸借が生じた旨の報告がある。果して然らば右競売期日の公告には事実相違の賃貸借関係の記載があるから当然無効である。

第三点又前記競売期日の公告によれば競売物件は開始決定表示の物件と同一物件の記載がある然れども記録中鑑定人清水健の鑑定書によれば、家屋番号新町第八六番の家屋は、「二坪増加しておる」家屋番号新町第二〇六番の家屋は、「一部中二階となれり」と報告してある果して然らば前記競売期日の公告にはその旨の記載をせねばならぬのに、右に出でてない。凡そ競売期日の公告に目的物の表示をなさしむるの法意は、家屋の構造坪数及び賃貸借関係の如何により競落をなさんとするものに考慮の余地を与うるものであるから、目的物の表示は正確に之をなさねばならぬに拘らず、右に出でざる競売期日の公告は公告なきと等しきの不当あり。

第四点本件に関する競売期日通知書によれば、債務者国守食品工業株式会社には競売期日の通知をなしたるの事実なし、但し高橋道則、国守舜太郎、鍋倉ミヤ子の三名には通知してある。競売法第二十七条によれば、競売期日の通知は利害関係人全員に之をせねばならぬとなつておるが、競売手続の債務者が利害関係人たることは明らかであるから、必ずやその通知を要する。依つて本件に於ては適法に競売期日の通知なきに拘らず、競落許可を与えたるの不当あり。

以上第一乃至第四点の理由により本件競落許可決定を取消し競売申立の却下を求むるため本件抗告に及びます。

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